「最近は、この辺も静かですね。」
隣を歩く後輩の佐々木が私に言った。宗右衛門町を歩く僕たち二人に居酒屋の客引き達が声をかける。僕たち二人以外には、客引きのお兄さん達が数人、手持ち無沙汰に立っている広い道を僕達2人は歩いている。
「そうだな。3年ほど前なら歩くのが大変なくらい旅行客が歩いてたよな。」
佐々木に言葉を返す。佐々木は、聞こえていないのか、どうでもよいのか何も言葉を発せずに、どの居酒屋に入ろうかとキョロキョロとしていた。そんな佐々木に私は言った。
「明日は休みだし時間も気にしないで飲めるのに21時には閉まるんだもんな。」
すると佐々木が
「先輩、ゆっくり飲みたいんですよね?僕も実は先輩に相談もあって、ゆっくり話したいなって思っていて。良い所があるんですよ!!!」
と得意げに言った。携帯を触り出して1分。
「空いてる。予約完了」
と言うと
「まあ、ついて来てください。」
佐々木が向かった先はコンビニだった。慣れた調子で、カゴにお酒とつまみを入れている。
「家飲みか?お前、こんな都会に住んでいるのか?」
私は半信半疑で佐々木に尋ねた。
「まさか!僕の自宅は、ここから電車で40分。山が近いですよ。」
佐々木は、面白そうに答えた。
「まあついて来てください。」
と言う佐々木について行くと、コンビニから徒歩3分ほどのマンションの一室だった。
佐々木は、玄関ドアの前に立ち携帯を見て、おもむろに、玄関ドアについているテンキー型の機械に4けたの数字を入力した。そして、ピーという音と共に玄関扉を開けた。
「先輩、今日はゆっくり語りましょう!!」
佐々木は笑って言った。中に入ると、自宅とは違う非日常な内装の部屋だった。ベッドもあり、ソファもあり、テーブルもある。
「綺麗な部屋だな」
佐々木は
「ここ民泊なんですよ。と言っても僕がやってるわけではなくて。予約しました、さっき。たまにリモートも、ここでやってるんですよね。なんか居心地良いし、携帯でさっと予約して鍵の番号が送られてきて開けるのが、ワクワクするんですよね。」
と悪戯っぽく答えた。
(確かにさっき、玄関扉が開いた瞬間は、ワクワクしたな。。。しかし、無人化で鍵の開け閉めができるなんて便利な時代だな)
「さあ、飲みましょう!先輩聞いてくださいよ」
佐々木と時間を気にしないお疲れ会が始まった。時間はあっという間に過ぎて、結局、佐々木は、その民泊に泊まり、私は最終電車に飛び乗った。佐々木は「先輩も泊まってください」と言っていたが。。
電車に乗りながら思った。
(メールで、その人だけの暗証番号が送られてきて開けるのか。次は自分もやってみたい気がするな)
少年時代に友人と作った秘密基地を思い出しながら、つい微笑んだ私が電車の窓に映った。
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