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副業✖️民泊 episode2

2021年11月10日。昼休み。大原敬子。30歳。独身。一応、一流企業と言われる製薬会社のOL。

お腹は空いているのに食欲がない。

理由は、2021年10月30日、ハロウィンの日に婚約していた年下の彼氏と別れたからである。婚約と言っても二人で飲みに行った時に、酔った勢いで話していただけであるけど。

浮気はするくせにお金はなくて、喧嘩が多かった……………..だけど、楽しかった。

敬子はため息をついて、デスクで菓子パンにかぶりついた。

(結婚したかったなあ…………..)

そう思いながら、敬子は何故そう思うのかを考えてみた。

(幸せな家庭に憧れている?いや、いや、あんな浮気者で幸せな家庭なんてあり得ないし!泣いて離婚するのがオチ。)

(安定した生活をして、いずれは子供が欲しいなー。でも….安定した生活ってなんだろう….?

持ち家やマンション、そうそう。自分のマイホームって安定してるよね!土地があって大家さん業なんてできたら、安定しかないんだろうな、そう同期のあの子みたいに)

近頃は、一流企業でも副業OKに変わりつつある。敬子の同期のユキも、祖父の持つ一棟マンションの大家さん業の役員になっていて一定の収入が毎月あるらしい。なんて羨ましい話。大家さん業なんて自分には関係ない話。だけど、「節税」や「副業でワンルームマンション投資」とか、なんとなく気にはなっている。敬子は、カバンの中に手を伸ばした。ガサゴソと取り出した一枚のチラシ。

『副業✖️民泊』

そのチラシには、そう書いてある。実は昨日、民泊ショールームに訪れてみたのである。美味しいsweetsとお茶に惹かれた部分も大きい。ぼんやりと思い出してみた。

お手頃な中古マンションを購入して、民泊事業をすれば、敬子の本業の製薬会社の収入と、民泊事業の経費を「損益通算」できるそうで、本業の節税になると説明された。始めたばかりは、利益よりも経費が多く赤字なので本業と損益通算して節税をしつつ中古マンションの資産を形成していく。そのうち利益が多く出てきたら、大家業として法人化をするスキームだった。

「投資マンションと同じスキームですね。」

敬子が言うとスタッフの女性は

「はい。節税をしつつ資産を作っていくスキームは同じですね。ですが、投資マンションだと賃借人に貸し、賃借人の住むマンションのローンを、その賃借料から返済します。ということは、せっかく購入したマンションでも、賃借人にずっと貸しているので自分が使うことはできません。ですが民泊事業の場合ですと、予約が入っていない時は、ご自身が使うことができますので別荘のように使えます。ご自身がたまに使用しながら節税と資産形成ができるのが、副業✖️民泊の大きなメリットであり、「副業✖️投資マンション」と「副業✖️民泊」の大きな違いです。ご自身が使わない時だけ宿泊予約を募集する事も可能なんですよ。」

と笑顔で答えてくれた。

敬子は、投資マンションのセミナーに参加した事もある。借地借家法により賃貸に出した部屋は、よほどの事がない限り退去をしてもらえない。どうしても退去をお願いという時は、立退料として新しい住居を構えられる資金を敬子が用意しなければならない。確かに、他人に貸したマンションのローンを払うのはいくら資産形成になるとわかっていても、OLの自分には負担が重かった事を思い出した。

「でも、自分が使って宿泊予約が少ない場合、マンションのローンは払わないといけないので、本業のお給料から払うことになりますよね?例えば返済が9万円だとして予約の収入が3万円だったとします。6万円を自分の給料から出すのは、いくら資産形成と言ってもちょっと…..」

不安げな敬子に、スタッフの女性は

「マンションの減価償却費用、民泊事業に必要な経費を、本業と損益通算することによって、納めていた税金が還付されます。その還付金も返済に充てる事ができますので、負担は少なくなります。

家賃をローン返済に充てれないご不安は、もちろんわかりますが。

考え方として、1LDKを賃貸として貸した場合、月の家賃収入が12万円とします。1ヶ月30日と分かりやすく計算すると1日あたり4000円の収入です。民泊の場合、1LDKの広さがあれば、ホテルに泊まると高くついてしまうファミリー層を狙い、4人家族で宿泊していただいた場合の宿泊相場は12000円です。6人まで同料金で12000円の宿泊料を設定したら、ホテルと比べてお得感があり大人気の民泊となると思われます。

賃貸の1日あたり4000円の収入と比べて12000円と3倍の収入となりますので、月に10日間を民泊として貸し出せば=1ヶ月の家賃の金額12万円となります。ご自身が使用しながら資産形成をして、返済を終わらせたら次の購入物件の担保にして、安定の大家さん業にして行くのです。」

と言ったのである。

「…..あ ん て い か…….」

敬子がつぶやくと、隣の席の社員が敬子を不思議そうに見ていた。その視線に敬子が気づくと、ちょうどお昼休みは終わった。

就業時刻になると、お昼はあんなに食欲がなかったのにお腹が減っている。昨日もそうだった。それを10月30日から11日間、毎日繰り返しているのだ。お昼に食欲がないくらい凹んでいても、夜にはちゃんとお腹が空く。泣いてしまって寝れないと思いつつも、寝ているのだ。

そう、そんなものなのだ。

(今頃、あいつはあの子と仲良くしてんのかなー)

自然と足が昨日、訪れた民泊ショールームに向かっていた。

「民泊なんて不思議なことばかりで一回では分かりませんから。いつでもお気軽に遊びに来てくださいね。」

と言っていたし。

その日は、sweetsとコーヒーをいただいて、なんだか話しやすくて、元彼の悪口も聞いてもらって盛り上がった。

帰り際に玄関で、女性スタッフが言った。

「あの、元気出してくださいね。

私がかっこいい男だったら、よしよしって頭ポンポンとかできるんですけど…..

女だし。なんというか……….

節税を考えられるって幸せですよね。収入が高くないと節税を考えないですもん。

何が言いたいかって…….

まー……….色々ありますけど、最悪ではないです!!!!!」

外に出ると、涼しい風が頬に当たった。

(確かに、あの女のスタッフさんがカッコいい男性なら良かった)

と思いつつ、

「副業✖️民泊か…….大家さん、なろうかな」

とつぶやく敬子だった。

END

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